物質的な欲求から離れて、
耕人として生きる。
亜由美さん 専業農家
宮城県出身の一耀さんは、運送業から農業へ転身。千葉県出身の亜由美さんは、クラシックバレエの先生。出産&移住後の今でも、月に1度は元いたクラスでママたちにバレエをレッスンしている。
青々とまっすぐ天にのびるネギ畑。子どもが走り回るのを見守りながら、父と母は畑仕事に打ち込んでいる。郷愁を誘う農家のワンシーンだが、2020年の今、“移住+新規就農”は憧れのライフスタイルのひとつになった。
2017年に長生村に新規就農者として移住してきた平塚夫妻。「結婚して1年くらいで子どもを授かりまして、同時に主人が農業で生きていくことを決め、身重のままバタバタとこの村に来ました。すべてが初めてのことだったので、思い切れたのかもしれませんね。」と亜由美さんは笑顔で振り返る。
サーフィンが楽しめて、通年農作業ができる場所。このふたつの希望を叶えてくれるのが、この村だった。「自分にはサラリーマンは向かないと思って。」と苦笑いの一耀さんだが、農業を選んだ理由はほかにある。
「東日本大震災をきっかけに、今の生活を変える必要があると強く感じました。何かが起こったときに、何もできないのが怖いと思ったんです。そこで生きていくために必要な農作物を作れる人間になろうと思いたち、千葉県内の農業法人で4年間お世話になりました。農場長まで任される立場になり、自分に農業は合っていると確信が持てたんです。でも移住してすぐには、売り先も未定だったんですけどね。」 まずは行動しないととばかりに、農業法人での農業キャリアを武器に4カ所の畑を借り、作付けを開始。畑仕事をしながら、飛び込み営業も行い、無事に売り先も見つけた。
「ずっと物質的な欲求に支配された生活でいいのか?変わらなくていいのか?と自問自答を繰り返していました。そんなときに農業と出会い、家族とこの村に移住して、長年の疑問が解消された気がします。」と笑顔の一耀さん。
10年前には予想もしていなかった“未来”に、いま生きている。そして、何がきっかけで人生が変わるかわからない、という真理も体感した。「農業はおもしろいです。季節を重ね、年月を重ね、経験や知識が自分に蓄積するのがわかるんです。農業を選んでよかった。」 土を耕す日々が、本当の豊かさとはなにかを教えてくれた。